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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)1767号 判決 1958年7月09日

控訴人 沼津小型貨物自動車株式会社

被控訴人 沼津税務署長

訴訟代理人 加藤隆司 外四名

主文

原判決をとりけす。

被控訴人が控訴人にたいして昭和三十年十一月三十日附でなした昭和二十九年度分法人税の所得金額の更正決定はこれをとりけす。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否<省略>

理由

控訴人がその主張の日にその主張のような目的をもつて設立された株式会社で、毎年四月一日から翌年三月三十一日を事業年度とするものであること、控訴人の昭和二十八年四月一日から昭和二十九年三月三十一日にいたる第三期事業年度には金四十一万七百八十三円の損失があつたが、昭和二十九年四月一日から昭和三十年三月三十一日にいたる第四期事業年度には金四十万四千九百円の利益金があつたこと、控訴人が被控訴人にたいし昭和三十年五月中に第四期事業年度分法人税の確定申告をしたところ、被控訴人はみぎ申告にたいし控訴人主張の日附でその主張どおり所得金額を更正決定し、その旨控訴人に通知したこと、控訴人がこれにたいし再調査の請求をしたところ被控訴人が控訴人主張の日附でその主張どおり再調査請求を棄却する決定をしたこと、控訴人が更に名古屋国税局長に審査の請求をしたところ、同局長は控訴人主張の日附でその主張どおり審査請求を棄却する決定をして、これを控訴人に通知したことは、いずれも当事者間に争いがない。

そこで、果して、控訴人がその主張のように、みぎ第三事業年度開始前の昭和二十八年三月末ごろ沼津税務署法人係にたいし青色申告書提出承認申請書を提出したか、どうかの点について判断する。

控訴人が昭和二十九年三月の第三期事業年度(昭和二十八年四月一日から昭和二十九年三月三十一日まで)の決算の申告に際して、青色申告書の用紙で被控訴人にたいし確定申告をなしたことは当事者間に争いなく、この事実と、鉛筆書の部分を除いてその成立に争いのない甲第一号証の記載と、原審における証人杉山猛、原審ならびに当審における証人小野和雄、当審における証人大沢俊之助の各証言をあわせ考えると、控訴会社経理担当の常務取締役小野和雄は昭和二十七年五月ごろ控訴会社第一期決算の確定申告書を提出した際、昭和二十七年四月一日からはじまる第二期事業年度に青色申告書提出することの承認をうけるため被控訴人にたいし、申請後最初に青色申告書を提出しようとする事業年度を昭和二十七年四月一日から昭和二十八年三月三十一日までと記載した青色申告書提出承認申請書をさし出したところ、係官からすでに承認を得ようとする事業年度が開始しているので無効だから出しなおすよう注意されたので、みぎ申請書をそのままもちかえり、この注意どおり、第三事業年度のはじまるすぐ前である昭和二十八年三月末ごろ、あらためて、最初に青色申告書を提出しようとする事業年度を昭和二十八年四月一日から昭和二十九年三月三十一日までと記載した青色申告書提出承認申請書を当時の沼津税務署法人係山本博に手渡したところ、被控訴人からはその承認不承認についてなんらの応答もなかつたが、昭和二十九年五月ごろ被控訴人から青色申告用紙を送つてきたので、控訴会社では前記承認をえたものと思い、前段認定のようにこの用紙を使用して昭和二十八年四月一日から始まる第三事業年度の確定申告をなしたものであるという事実を認めることができる。原審証人山本博、同望月定二郎、同富塚昌吾の各証言中みぎ認定に反する部分は前記認定に引用の各証拠にてらし信用できない。

また、乙第一号証中「非青」という鉛筆書の記載、その他乙第三号証の一、二、同第四号証、同第五号証の一、二は、その各記載によると被控訴人税務署の帳簿や書類のうえでは、控訴会社をいわゆる青色法人としてとりあつかわれていなかったことだけはみとめられるけれども、これらによつて、控訴人主張の承認申請はなかつたとみなければならないほどの証拠ではなく、前記認定のさまたげとならない。

なお、控訴人が昭和三十年五月ころ白色申告の用紙を使用して昭和二十九年四月一日から始まる第四事業年度の確定申告をしたことは控訴人のみずから言うところであるが、原審ならびに当審における証人小野和雄の証言によれば、控訴会社は、前段認定のように、被控訴人によって青色法人として承認を受けているものと思つていたところ、昭和三十年五月ごろ第四事業年度確定申告用として白色の用紙がとどけられたので、事の意外におどろき、経理担当の小野和雄に命じて沼津税務署法人係長望月定二郎らにこれまでのいきさつを説明して控訴会社がすでに青色法人として承認をえている旨の諒解を求めさせたが、控訴人が承認申請書を提出した当の相手方である当時の法人税係山本博がみぎ受領の事実を否認したため等の理由で、容易に被控訴人の容れるところとならなかつた。他方確定申告書提出期限も切迫している折から、望月係長のすすめに従つて、前記青色法人として承認ずみであるとの主張を留保することを明らかにして、とりあえず白色用紙で確定申告をした事実を認めることができるから、みぎ事実もまたもとより前記認定のさまたげとなすに足らない。他にみぎ認定をうごかすに足りるなんらの証拠もない。

もつとも、甲第一号証中「昭和二十八年春提出」という鉛筆書の記載は原審証人富塚昌吾、同田島和江の各証言ならびにこれらによりその成立を認める乙第六号証の記載によれば、前記承認申請書提出当時記入されたものだとの控訴人の主張が真実であるかどうかは、うたがわしいけれどもそうだからといつて、このことが前記認定のさしさわりとならないことはいうまでもなかろう。

なお、原審証人望月定二郎の証言によれば、被控訴人は当時青色申告書提出承認申請書が提出されると、これをたんに青色申告整理簿に記入するにとどめ、申請書提出者にたいし受領証を交付する等申請書の受理を確認する方法を講じなかつたことを認めることができるから、そのとりあつかいにあやまちがないことを期しがたいことは原審の説示のとおりでこのことは前記認定の妥当であることを推認せしめるものである。

しかして、控訴人のみぎ青色申告書提出承認申請書にたいし被控訴人においてこれを却下しなかつたことは被控訴人の明らかに争わないところであるから、控訴会社は法人税法第二十五条第六項によりいわゆる青色申告法人とみなさるべきところ、同条第八項の承認とりけしの事実の主張、立証のない本件においては、同法第九条第五項の規定にしたがい、控訴会社の欠損金は当然その後の事業年度に繰越されるべきもので、控訴会社がその第四期事業年度の課税所得の算定上、第三期事業年度の繰越欠損金を損金として算入したことはもとより当然の措置で、すこしも違法のかどはなく、したがつて、その算入を許されないものとした被控訴人の本件更正決定は失当である。そのとりけしを求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。

みぎと反対に控訴人の請求を棄却した原判決は民事訴訟法第三八六条によりとりけすべく、なお、訴訟費用の負担につき、同法第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 谷口茂栄 満田文彦)

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